皆さんカレーはお好きですか?
1300年前、都のあった奈良には、
日本国内のみならず世界中から様々な人や物が集まってきました。
有名な高僧や技術者、黄金に輝く仏様、美しい工芸品の数々、そしてスパイスも???
今も正倉院に眠る古代の薬草の数々が物語るように、
奈良とスパイスは古くからのつながりがあるようです。
ここでは日本のカレーの歴史を紐解きつつ、
そこに使われるスパイスと奈良の意外な関係ついて探っていきたいと思います。
奈良とスパイスの
長い長い歴史-
今やすっかり日本の国民食となったカレーですが、
もとはインド発祥のスパイス料理です。本国インドでは地域や宗教によって様々なカレーが存在し、日本の小麦粉が入ったルーを基本としたカレーとは別物。
古代から薬として大切にされてきたスパイスを料理に取り入れ、
近隣諸国からのスパイスや食文化と融合しながらできたのが現在のインドカレーとされています。
18世紀、スパイスは海を渡ります。イギリスで初めてカレー粉が誕生するのです。 -
カレーが日本へやってくるのは19世紀後半。
イギリスから日本に伝わりました。のちに国産カレー粉の販売も始まり、カレーは一般家庭へと広まります。
その後のカレー人気は皆さん周知のこと。
このように、日本の国民食・カレーは長い年月をかけてインドから日本へとやってきたのでした。 -
さて、場所を移して奈良のお話をしましょう。
毎年秋、奈良の町は一年で一番の賑わいを見せます。正倉院展です。
正倉院には今もなお、9千点以上の宝物が残されており、それらの一部は「東大寺献物帳」という宝物リストに記載されています。
また中には「種々薬帳」と呼ばれる薬に特化した宝物リストも存在します。
その中には、胡椒や桂皮も含まれていました。コショウやシナモン、つまりスパイスです。
当時、スパイスが他の宝物と同様に希少とされていたことがわかります。
現在も、コショウやシナモンはカレーに使われるおなじみのスパイスですよね。シルクロードの終着点として多くの渡来品が今も残る奈良。
カレーが海を渡り、はるばる日本へたどり着いたように、スパイスも長い時を経て現代日本に根付いています。
近年、奈良ではカレー専門店が増えつつあります。店ごとに違う個性を見せるカレー。
奈良でカレーを味わいながら、長い長いスパイスの歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょう?
弘法大師の料理人が語る、
仏教とスパイス奈良県北東部に位置する山添村にある不動院のご住職・前川良基さんは、とある経歴の持ち主。
それは『弘法大師の料理人』。
今も弘法大師・空海さんが瞑想しているといわれる高野山奥之院。
毎日2回、奥之院に仕えるお坊さんたちが弘法大師様へお食事をお持ちします。
お味噌汁、お漬物、時には中華、イタリアンも⁈
「お大師様においしい料理を食べてもらいたい」
当時、料理担当だった前川さんは、弘法大師様を思うがあまり、調理師免許まで取ってしまいます。
今は山添村・不動院の住職、そして真言宗の布教師としても活躍される前川さんに、仏教とスパイスについて伺ってきました。
前川良基
昭和48年生まれ。三重県松阪市出身
普通のサラリーマンの家庭で生まれ育ち高校卒業後、高野山に上る。
得度、加行を修し高野山総本山金剛峯寺に12年間奉職。その後、ご縁をいただき山添村不動院住職に晋山。家族5人で暮らし、地域との関わりを深く持つことに努める
安達えみ
静岡県出身。ホトケ女史。合同会社榧 代表。
2014年に奈良が好きすぎて東京から移住。
デザイナー、イラストレーター、ツアーガイド、イベントプロデュースなど、奈良や社寺にまつわる活動を中心とする。
- Interview
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ホトケ女史弘法大師の料理人として奥之院にお勤めされていた際、弘法大師様にもカレーをお出しすることはあったんですか?
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前川住職出していましたね。
市販のカレー粉は牛肉エキスが入っているので精進的にはNG。
ターメリック、コリアンダー、シナモン、グローブ、黒コショウなどのスパイスを調合して、
牛肉エキスの代わりに野菜のエキスを入れていました。
野菜、特に根菜類は出汁が出る野菜と言われています。
大根、人参、ごぼう、レンコン等、丁寧に煮込んでいくと野菜の旨味が出てくるんですよ。 -
ホトケ女史野菜の旨味がしみ込んだカレー!どんなカレーになるんでしょう?
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前川住職イタリア料理のミネストローネがカレー風味になった感じですね。美味しいですよ。
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ホトケ女史弘法大師様が奥之院でカレーを召し上がっていたとは意外でした。
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前川住職カレーはインドの国民的な食事。お釈迦さんもカレーを食べてはったと思うんですよ。
お大師さん(弘法大師)は若いころに中国に渡っていました。
当時の中国にはインドから仏教が入ってきており、スパイスも持ち込まれていたはずです。お大師さんも中国でカレーっぽいものを食べていたんじゃないでしょうか。 -
ホトケ女史前川住職は、仏教発祥の地でもあるインドでのカレー文化をどうお考えですか?
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前川住職インドには「アーユルヴェーダ」という考え方があります。
これはインドの伝統医療の考え方ですが、食に対しては美味しさだけではなく体にいいかどうかが大事である、とされています。スパイスはもともと薬の役割があります。
インドの人たちはそんなスパイスを体調に合わせて調合し、カレーとして食していたのでしょう。
それが長い年月をかけて日本へと入ってきたわけです。 -
ホトケ女史正倉院宝物の中にはスパイスも含まれています。古代日本にもスパイスが伝わってきていますね。
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前川住職海外からもたらされたスパイスは、当時の日本にとっては大変貴重なもの。香りを楽しむだけでなく、体に取り込むことで健康に、更にはせっかく食すのであれば美味しく、そんな思いもあったかもしれませんね。
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ホトケ女史仏教とスパイス、共にインドから伝わってきますが、何かつながりはありますか?
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前川住職密教の儀式に護摩があります。炎により供物を焚き上げ、厄や災いを払うものです。
護摩では護摩薬種として丁子(クローブ)、桂心(シナモン)、訶梨勒(かりろく)、白ごまなど、様々なスパイスが使われます。
護摩の炉は仏様の御口とも言われています。
炉にスパイスや五穀を投げ入れ、仏様のご加護をいただきます。密教では、自分の中に仏を感じられるかを重視します。
香り高いもの、美味しいものを口にした仏様は喜び、その喜びは自分自身の喜びにもなります。 -
ホトケ女史炎が印象的な護摩法要にはそんな意味が込めらえていたんですね
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ホトケ女史前川住職ご自身もカレーを作られることはあるんですか?
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前川住職毎年夏、不動院で行う地蔵盆ではカレーをふるまいます。
「100時間カレー」と名付けているんですが約3日間かけて作ります。 -
ホトケ女史カレーに3日ですか⁈
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前川住職フォン・ド・ボライユといってフランス料理で使われる鶏の出し汁があります。
まずはこの出し汁を作り、野菜と一緒に煮込んでいきます。
セロリやニンジンを炒め、牛肉も炒め、玉ねぎも30個くらいは使うんじゃないでしょうか。
タイムやバジルなどの香り野菜を加えるのがこだわりで、最終的にフランスのビーフカレーに仕上げていきます。 -
ホトケ女史お寺でビーフカレー!
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前川住職地蔵盆なので、何よりも地元の子供たちに喜んでもらいたい。 子供が好きなものを考えてカレーに、野菜だけよりはお肉も入ったほうがいいだろうと思ってビーフカレーにしています。
たまに小学校に行くと「カレー美味しかった!」と言ってくれる子もいて嬉しいですね。 -
ホトケ女史3日間かけて作った甲斐がありますね。
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ホトケ女史インド、仏教、そして地域の子供たちと、カレーの話は尽きませんね。
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前川住職カレーには「人が健康に生きるために食がある」というインドの根本的な思いが込められています。
スパイスを薬効や香りとして使うだけではなく「美味しく調理して大切な人に食べてもらいたい」そんな作り手の思いがカレーには込められているのかもしれませんね。
- Interview
やまぞえ不動院
奈良県山添村にある高野山真言宗寺院「中央山龍巌寺 不動院(やまぞえ不動院)」
住所:奈良県山辺郡山添村春日362
駐車場:有
Tel: 0743-85-0171
公式サイト:https://fudouin.amebaownd.com/
ホトケ女史おすすめ!
奈良のカレー屋さんつるカレー
観光地から少し離れた近鉄奈良駅の北側“きたまち”の住宅街の一角、ご近所さんに愛されるお店。
スパイスを強調しすぎることなく、日本人好みの奥行あるうまみが特徴。
季節ごとに味付けの変わるサンバルが絶品。
まさら庵 TAKUMI
生駒山を望む古民家でインド料理歴35年の主人が作るこだわりのスパイスコース料理をいただく。
和洋折衷様々な料理にスパイスを加え、食材の新たな面を引き出す。
スパイス料理とお酒の相性も抜群!誰かを連れていきたくなる特別なお店。
【前日までの完全予約制】
- 住所
- 奈良県奈良市中町2281
- 電話番号
- 0742-47-1601
- 営業時間
- 12:00-12:30入店(Close14:30)/18:00-19:30入店(Close21:30)
- 定休日
- 火・不定休
- 駐車場
- 有(5台)
カレイヤー
大阪で2013年にカレー専門店としてオープンし、22年に生駒に移転。今はカレー以外にラーメンも提供している。店主が「2口目、3口目で旨味を感じられるカレーにしたい」と語るように優しい味わいで幅広い層に人気。近くには店主のメタルバンド好きが前面に押し出されたカレー自販機も。
森のレストラン
ラッキーガーデン
生駒山の中腹にあるロケーション抜群のお店。
アーユルヴェーダの本場・スリランカ出身のシェフが作るスリランカ料理は煮炊き文化。
和食とも共通点が多いため現地の味をそのまま提供。
本国から仕入れた紅茶を使ったミルクティーのパフォーマンスも必見。
イマココ食堂
インド通いをしていた女性店主が営むちょっとピリ辛なスパイスカレー店。
店の入り口では個性的なシヴァ神が出迎える。
カレー好きがわざわざ訪れる隠れた名店。
カレーはもちろんのこと、プレートにつく豆で作られたドーナツ“ワダ”まで美味しい。
YAREYO
大阪出身の店主は、下北山村で地域おこし協力隊を務めた後、今のお店をオープン。
「中南和の野菜を食べてもらいたい」と、カレーセットの中には旬の野菜が盛りだくさん。
奈良で出会った人たちへの恩返しの気持ちを込めて、日々カレーを作る。
萩王
明治時代のお屋敷で創作日本料理屋を営む傍ら、
「気軽に食事を楽しんでいただきたい」と会席料理以外にスパイスカレーを提供する。
料理人自ら育てたカレーリーフと明日香の生姜、和食の出汁等を使った華やかでありながらコクのあるカレーが楽しめる。
モリソン万年筆&
カフェ
古い町並みが残る御所の町で大正時代から万年筆を作ってきたモリソン万年筆が2016年よりカフェとしてオープン。
葛城山で育てた鴨と、銘酒「風の森」で有名な油長酒造の酒粕を使ったカレーは、美味しいスープを味わっているような唯一無二の一品。