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赤膚焼と奈良絵の麗しき関係

取材先 「赤膚焼 大塩正人窯」

神々の宴につらなる古きやきもの

 かつて都から、平城京の西方に赤茶けた山が望めたという。色の正体は鉄分を含んだ上質の赤土、つまりやきものに適した粘土である。朱は魔除けにつながる聖なる色。沈む夕日のなか、赤い山肌はさらに燃えるように際立ち、神々しかったことだろう。
 その山の名は五条山といった。しかし浮き出た色ゆえに、赤膚焼の名の由来ともされる「赤膚山」と通称されることになる。

 西ノ京丘陵に位置する五条山の土で産出されたやきものの原点は古く、神々に供え物をする須恵器にはじまるとされる。『日本書紀』には、垂仁天皇の皇后・日葉酢媛(ひばすひめ)命が亡くなった際に殉死を防ぐため、土師氏の祖先・野見宿禰が“人の形を模した土物=埴輪”を作って陵墓に立てた話がみえ、こうした伝承が引き合いにだされることも多い。
 赤膚焼として確立するのは桃山時代。郡山藩(奈良県大和郡山市)の城主となった豊臣秀吉の弟・秀長により、この五条山に窯が開かれてのことだ。
 土の採取が容易いこと。同地が窯場に選ばれたのはそれ故だろうと思いがちだが、理由は以外にも“赤松が豊富にあったから”だという。
 松脂を含む赤松は火がつきやすく、火力が強い。そこで陶芸に最適な燃料として重宝されるのだが、松脂を多量に蓄えた良い松は非常に重い。しかも大量に必要だ。つまり運搬の手間を考慮すれば、「赤松の森の近くに窯を設けるのが一番効率がいい」ということになるそうだ。
 五条山には土も赤松もそろっていた。今もこの周辺には赤膚焼の窯元が4軒ある。所縁の大和郡山市内には2軒を数える。

 その内の1軒、歴史ある山の麓で赤膚焼を継承する大塩正人(まさんど)窯を訪ねた。予約をすれば見学が可能だ。
 たどり着いた先は閑静な住宅街。ところが、その敷地内に一歩入れば様相はがらりと変わる。点在する工房や展示室の奥には松の割木(薪)が詰み上げられ、山の斜面に築かれた登り窯が口を開けていて、市内とは思えない独特のムード。まさに空気が違う。
 多量の薪を前にして、案内していただいた大塩正巳氏に「赤松は切り出してまず2年干し、割ってからさらに3年干す」とうかがった。薪を確保するだけでも大仕事である。
 ひと抱えほどの丸太を手に取ってみたところ、とても重くて持ち上がらない。かと思えば、比較的軽いものもある。これが松脂の差らしい。松脂の含有量が違えば、当然火力等にも違いが出る。経験を頼りに天然の燃料を使いこなし、温度や燃焼時間を自在に操る。そうしてやきものに世に2つとない景色が生まれ、命が吹き込まれるのだ。

 正人窯では土の採取から灰釉作りまですべて独自に行っている。展示室に並ぶ作品は実に表情豊かで、土の力強さが出たもの、深い赤紫を帯びたものなど「ほんのり赤い地肌に乳白色の釉薬をかけ、奈良絵が描かれた」という一般的なイメージの赤膚焼だけでなく千差満別。素朴な土の持つ可能性が披露されている。

仏縁にはじまる色鮮やかな絵

 前述したように、赤膚焼といえば奈良絵を思い浮かべる人が多いだろう。
 赤膚焼は江戸後期に郡山藩主の柳沢家の御用窯となり、特に三代城主の尭山(ぎょうざん)によって保護奨励されて「遠州七窯の一」と呼ばれるにいたったという。
 奈良絵を五条山のやきものに用いたのは、この後に出た赤膚焼の名工・奥田木白(もくはく)とされる。

 繊細な線と鮮やかな色彩が特徴で、キュートでポップと表現したくなる奈良絵。しかし、その原点を聞いて驚いた。釈迦の生涯(本生と仏伝)を描いた「過去現在因果経」をわかりやすく伝えるための絵解き「絵因果経」を手本に生まれたというのだ。
 といっても絵に宗教的な意味はない。心にすっと溶け込むやさしいタッチのみを抜き出し、流用して、三笠山(御蓋山)や鹿、二月堂といった“奈良のモチーフ”を描くことで独自に発展してきたらしい。
 奈良絵には確たる定義はないとされる。つまり、奈良らしいものを奈良で描いた、あの図柄こそが奈良絵と総称されているわけだ。

 正人窯の工房のひとつで、絵付けの様子を見学させてもらった。
 まず墨で絵の輪郭を描く。そして絵筆を持ち替え、例えば朱なら朱と同じ色ばかりをいくつもの器に差し、次に緑の筆で、また緑ばかりを差していく。作業はそんなふうに進んでいくという。
 もちろん鉱物が主原料というやきもの用の絵の具は、見た目には朱にも緑にも似ても似つかない色だ。ところが、炎の力を借りて焼き上がってきたときには、あの鮮やかな色合いに生まれ変わっている。
 伝統的な図柄のほかにも古都・奈良をイメージするものはまだまだたくさんある。こちらの工房ではそれらを取り入れ、新しい奈良絵も創出。奈良の魅力を発掘している。

 最近は単独活動も目立つ奈良絵。図柄が一堂にプリントされた手ぬぐいやTシャツが、土産物の代表格となるほどだ。ずらりと並んだ図柄を見ていると、何かの物語が紡がれているようにも見えるから不思議である。
 名所などをただシンボライズしただけではないのかもしれない。奈良絵には先人たちからの謎掛けが潜んでいるのだろうかと、かわいい絵が描かれた小皿を手にそんなことを夢想した。

文:宮家美樹
本文中の情報は平成28年3月31日時点のものです

赤膚焼 大塩正人窯 店舗情報

奈良市赤膚町1051-2
TEL 0742-45-4100
要予約

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