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たった2部屋だけの贅沢!
ホテルに転身した
旧富本憲吉記念館

取材先 「うぶすなの郷 TOMIMOTO」

人間国宝を育んだ
生家に泊まる

竹林月夜(客室) うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館アーティチョーク(カウンターレストラン) うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館

写真:「うぶすなの郷 TOMIMOTO」

サイン たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館

 その地の古名が『日本書紀』にすでに見られるという安堵町。のどかな田園風景のただ中に立てば、隣町にある法隆寺から時を超えた清冽なる鐘の音が聞こえてくるかのようだ。
 豊かな自然と歴史に彩られたこの町に3月オープンしたのが、古民家ホテル「うぶすなの郷 TOMIMOTO」。第1回・人間国宝に認定された近代陶芸の巨匠・富本憲吉の生家をリノベーションした、“体験型”宿泊施設である。

 住宅街を縫う迷路のような道を進む。右に左にと曲がるたび、現れるのは木造のお屋敷。周囲には堀を備えた環濠住宅も残されており、かつて水運の要衝として栄えた古き町の面影をそこここに見ることができる。
 そうした風情ある町並みにとけ込むようにして「うぶすなの郷 TOMIMOTO」は立つ。施設は2012年まで「富本憲吉記念館」として運営されていたもので、完成披露時には同館を懐かしむ人々が新たな出発を祝うために大勢詰めかけた。

和と洋のハーモニーが奏でる
こだわりの客室

 広い敷地内に建物がゆったりと配置されており、客室の総数はなんと2部屋。間仕切り次第で部屋数の増加は可能だったはずだが、贅沢な間取りにこだわったのは古民家という建築の特長を最大限に活かすため。開放感たっぷりの高い天井、芸術的に交差するしっとりと黒く光る太い梁。魅力あふれる建築のダイナミズムを間近に見られるのは、元の建物をありのままに活用したからこそといえる。

竹林月夜(客室) うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館 竹林月夜(客室) うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館

竹林月夜(客室)

竹林月夜(客室)

 さて、客室のひとつは「竹林月夜(ちくりんげつや)」。大正時代に移築された蔵をリノベーションしたもので、ツイン・セミダブル・和室からなるメゾネット形式。富本が英国の陶芸家バーナード・リーチと親交が深かったことを意識して、内装やインテリアは和とイングリッシュスタイルの融合をテーマに統一、格調高い一室となっている。
 庭園は客室の名称通り、風に静かに身を委ねる竹林がメイン。遠き日に、この地で二人が眺めた竹林をイメージしているという。


日新(客室) うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館 日新(客室) うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館

日新(客室)

日新(客室)

 もうひとつの客室は、同郷の親友である世界的な医学者・今村荒男と、“日本を新たに”という思いで合作した書画「日新(にっしん)」を名に持つ。これは実際に書斎として使われていた和室にモダンスタイルの洋室を増築したもの。客人をもてなしたという茶室も残されており、誠に趣深い。シダレザクラにドウダンツツジ、アジサイ、モミジなど四季折々に彩りを変える庭園を眺めながら、一碗楽しみたいものだ。

 いずれの客室も採光がとても印象的。移ろう太陽と庭園に柔らかく反射する光が複雑に差し込む効果なのかもしれないが、古民家のポテンシャルを実感することができるだろう。
 半露天風呂の採光も実に計算的だ。なので、ぜひとも明るいうちに入りたい。刻々と表情を変える明度と色合いは、旅の疲れを忘れさせる癒やしにあふれている。

県産の自慢食材を詰め込んだ
旬菜の数々

五風十雨(大広間レストラン) うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館

五風十雨(大広間レストラン)

アーティチョーク(カウンターレストラン) うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館

アーティチョーク(カウンターレストラン)

 レストラン「五風十雨(ごふうじゅうう)」は、ランチまたはディナーのみでの気軽な利用も可能だ。
 靴を脱いで通された店内でまず目に入るのが、柱や梁を染める鮮やかなベンガラ色。落ち着いた色合いは時だけが醸すことのできる上品な華やかさに満ちていて、特別な上質感を漂わせる。
 奈良県産の食材を中心にしたメニューは、“やさしい”がキーワード。出汁を効かせた身体に良い調理法で新鮮な野菜をたっぷり盛り込み、旬の味わいを表現する。今後は農業が盛んな同町の“採れたて野菜”もとり入れる予定とか。話題の大和肉鶏やまほろば赤牛など、メイン料理の食材も地産地消。美しい盛り付けにも注目だ。
 ただし、ランチ・ディナーともに事前予約が必要。また、ウィリアム・モリスのモチーフに彩られたカウンターレストラン「アーティチョーク」の利用は残念ながら宿泊者限定(6名まで)に。目の前で腕を振るう料理長のできたてメニューを楽しみたいなら、ぜひ宿泊しよう。

 敷地内にはさらに若手陶芸家のための工房&ギャラリーも設置。体験型施設としての幅広い活用の在り方を模索している。また4月1日を皮切りに、夏祭りなど町内の行事に合わせて一般開放日を設定。地域と一体化した町おこしの一翼を担う。

 花々に、庭石の配置に、そして室内のあちこちに、富本が愛したモチーフが見え隠れする。散りばめられた美意識は、作品を愛するファンならずとも、巨匠の足跡に詳しくない者の五感をも知らず知らずに刺激する。
 この心地よさは、たぶん他では体験できないもの。
 観光地をめぐる間に“ただ泊まるだけ”ではない。
 ゆったりと滞在して、この空間と時間にまるごと身を委ねてみよう。
 もしかしたら、芸術的なインスピレーションが降りてくるかもしれない。

取材・文:宮家美樹
本文中の情報は平成29年3月31日時点のものです

うぶすなの郷 TOMIMOTO たった2部屋だけの贅沢!ホテルに転身した旧富本憲吉記念館

写真:「うぶすなの郷 TOMIMOTO」

富本憲吉(とみもと・けんきち)
1886年(明治19)年~1963年(昭和38)

陶芸家。現在の奈良県生駒郡安堵町に生まれる。東京美術学校・建築科で室内装飾を学ぶ。イギリス留学でウィリアム・モリスの影響を受け帰国。来日していたバーナード・リーチとの交流の中で陶芸の道に進み、楽焼・白磁・染付・色絵と作域を広げた。後に色絵に金銀彩を加えた華麗な技法を完成させる。
「模様から模様を作らず」を信条に、過去の伝統的作品の模様をそのまま用いず、自然の草木の写生をもとに新たな模様を次々と創作。代表的な常用模様は「竹林月夜」「四弁花」「羊歯」など。1955年(昭和30)重要無形文化財保持者(人間国宝)認定、1961年(同36)文化勲章を受章。

うぶすなの郷 TOMIMOTO

うぶすなの郷 TOMIMOTO

奈良県生駒郡安堵町大字東安堵1442 TEL:0743-56-3855 ※最寄駅 JR法隆寺駅
【ご宿泊】
2名1室・1泊2食付きの場合
2名で10万円~(税別サ込)
・「竹林月夜」最大8名まで
・「日新」最大4名まで

チェックイン15時?18時
チェックアウト10時

【お食事】
レストラン「五風十雨」

ランチ(季節の松花堂弁当)
3,240円、5,400円、7,560円
(すべて税込)
11時30分?、13時?
(二部制・要予約)

ディナー(料理長おまかせ会席)
8,640円、12,960円
(すべて税込)
季節限定のプランもあり
17時~19時(L.O.)
※ディナーは問い合わせのこと
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