もっと奈良を楽しむ
早春を彩る町家のひな巡り
城下町に受け継がれた雛人形
ゆるやかにカーブする石畳の上り坂。その両側には武家連子(出窓)に虫籠窓の町家が立ち並び、水路を静かな水音が流れていく。
時が止まったかのようなこの趣深い坂道は、日本3大山城のひとつ・高取城址へと続く高取町のメインストリート「土佐街道」。はるか遠い南国の名が街道に付けられているのは、大和王権の時代、都等の造営のために土佐の国から集められた人々が帰還叶わず、住み着いたこの地を「土佐」と呼んで故郷を偲んだためという。
大和平野と吉野地方の交流拠点として賑わい、また薬の町として大いに繁栄した高取町。今ではすっかり閑静な住宅街なのだが、毎年3月のひと月間、なんとのべ数万人の観光客が訪れる。
奈良の春の風物詩となった「町家の雛めぐり」が開催されるのだ。
今年で17回目を数える「町家の雛めぐり」。名称通り、土佐街道沿いに連なる町家の玄関や座敷、縁側、そして商店の店先で、その家に代々伝えられてきた雛人形を公開するというものだ。
企画を立ち上げたのは、実行委員会代表の野村幸治氏を含めた地元のシルバー世代5人組。高取町に活気を取り戻したい、町家が息づく景観を残したい、そんな強い思いからだった。
ふと閃いたのが雛人形。どの家々にも立派な雛飾りがあるのに、長らく蔵や納戸にしまわれたままになっているという実情を知ったことが契機だった。
「雛ものがたり」に思い出を重ねて
長い歳月を経て再び飾り付けられた人形たち。娘達が成人して以来、30年ぶり、40年ぶりというものも数多くあった。
蔵から出して眺めれば、皆それぞれの胸に懐かしい思い出が甦ってきたという。
そうした雛人形ひいては雛祭にまつわるエピソードは「雛ものがたり」として色紙につづられ、人形の横に掲示されて花を添える。
ある雛ものがたりを目にしたご夫人は、母とふたり、ささやかなご馳走を手に戸外でピクニックをした遠き日のことを思い出した。
その時、母はこう言ったそうだ。
「今日は3月3日。本当は雛人形を飾ってお祝いしたいけれど、戦争中の今はそんな贅沢は許されない。だからせめて、ふたりでお祝いしようね」と。
雛ものがたりを軸に町の人々と訪れた人々の間で会話が広がり、また新たなストーリーへとつながっていく。
誰にでも“語り継ぎたい”かけがえのない思い出があるものなのだ。
イラストマップ片手にゆっくり歩こう
今年の「町家の雛めぐり」には約100軒が参加する予定。ひとくちに雛人形といってもさまざまで、時代ごとにお顔も姿も違えば、衣装も違う。さらに家ごとに飾り付けの工夫や作法が違っていたり、また娘が成人すれば雛壇の緋毛氈を紫に変えるといった珍しいしきたりも残されていて、見応えは十分だ。
2階が物置となっている「つし2階」と呼ばれる町家に、歴史ある豪華な雛飾りはまことによく似合う。
街道には家老屋敷や武家屋敷も現存しており、「雛めぐりモデルコース」のマップと併せて「土佐街道 散策マップ」を利用すれば、城下町散策もたっぷり楽しめる。時間があれば、比高(麓から本丸までの高低差)日本一といわれる難攻不落の高取城址にも足をのばしたいものだ。
期間は3月1日(水)~
31日(金)で、土日には特別なイベントも開催。高取町観光案内所「夢想館」などには、ほんのりと甘い雛せんべい(9枚入り350円)、雛くず餅(2ヶ500円)など期間限定の和スイーツも登場、町が雛祭一色に染まる。
また、地元の古刹・眼病封じで知られる壺阪寺でも古仏と雛人形を曼荼羅のように祀る「大雛曼荼羅」を特別に公開する予定だ。
歴史に彩られた町家のひな巡りで、ひと味違う桃の節句に親しみたい。
取材・文:宮家美樹
本文中の情報は平成29年1月31日時点のものです
第18回 町家の雛めぐり(高取土佐)
18回目となる今年で最終回となる高取町の「町家の雛めぐり」。今年も高取町の街道筋の町家、商店等にお雛様が展示されます。天段の雛(17段500体のひな人形)や、壷阪寺の大雛曼荼羅などが公開されます。
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大雛曼荼羅公開(壷阪寺)
過去最多の4000体以上のお雛様を本尊十一面千手観音様と一緒にお祀りします。
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