もっと奈良を楽しむ
2016年10月掲載
個性豊かな奈良の“秋祭り”
どこからか聞こえてくる笛や太鼓の音に、秋の到来を強く感じる人は多いだろう。ことに10月に入れば、そこかしこに祭の気配が満ちてくる。
「アキ」という言葉は「実り、また穀物が稔ること」を意味していた。つまり秋祭りとは“秋に行われる祭”ではなく、収穫祭と同義語だったわけだ。
日本の神は宮(神社)には常在せず、春に来て秋に帰るという存在だった。神は春から秋にかけてのみ田に在って作物を守り、役目を終えると去ると信じられてきたため、かつては収穫期終了後の神を送り出す祭としても機能していた。
天高く祭囃子がこだまする
葛城山麓に鎮座する鴨三社のひとつ鴨都波神社の秋季大祭・宵宮で行われる「ススキ提灯献灯行事」には、祭事における神送りの姿が残されているように思えてならない。
ススキ提灯とは、4~5メートルほどの竹竿に横竿を渡し、高張提灯を上から2・4・4と合計10張り吊り下げ、先端に御幣を掲げたもの。積み上げた稲束を「ススキ」と呼ぶが、かつてこのススキの中心に柱を立てて依り代とし、神を呼んだという。
ススキを穀霊もしくは稲霊とみなすむきもあるが、
鴨都波神社では稲穂が実っている姿そのものを指す。
夕闇の中、神社から1キロメートルほど離れた葛城公園に集結した総勢約30基あまりのススキ提灯が、鉦や太鼓を伴って本殿を目指すさまは勇壮でありながら切ないまでに美しい。
捧げられる祈りは五穀豊穣に加え無病息災、家内安全だが、その様子に、つい神々を見送った人々の記憶を見てしまうのだ。
豊穣への感謝を表すのだから、秋祭りでは神前に、特に初ものと豊富な食物が供えられる。それに加えて、独創的で特別な神饌が献じられることも多い。
「火祭り」として知られる往馬大社の秋祭に供される神饌「火の御供(ごく)」も特殊な神饌のひとつ。これは炊いた米を竹串とコモクサで丁寧に巻きとめ、高さ30センチメートルほどの円筒形に仕上げたもの。一見すると食べ物には見えず、かなり個性的だ。
祭そのものもなかなかにユニーク。渡御行列や酔っぱらいの仕草のような弁随舞(べんずりまい)など神事は多彩だが、クライマックスの火祭りは大松明に火が付いたかと思う間に、一瞬で幕を閉じる。
あっけにとられる一方、勢いよく燃え上がる炎の瞬発力をまさに体現するかのような祭事に心を奪われることも確かだ。
高秋に“静”と“動”がせめぎ合う
丹生川上神社(中社)で行われる小川まつりでは、祭に対するエネルギーを目の当たりにすることができるだろう。
祭の主役は8カ大字より繰り出す、装飾を凝らした8台の太鼓台(山車の一種)。揃いの長襦袢・鉢巻き姿の男たちに担がれた太鼓台が境内に集結したところで祭は最高潮に。乗り児の「ヨーイヤサッサ、ヨイヤサッサ」の掛け声勇ましく所せましと駆け回り、観客を巻き込んで熱狂の渦を巻き上げる。ぶつからないかとハラハラさせられるのも一興だ。
かつては衝突もしばしばあり、そのたびにケンカになったという荒々しさ。今でも誠に勇壮だ。
本文中の情報は2016年9月30日時点のものです
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