奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良宿手帖』

第9回

ブランシエラ・ヴィラ明日香~住むように滞在する宿~


2022年3月、明日香村で一棟貸しの宿、「ブランシエラ ヴィラ 明日香」がオープンした。1870年築の明治時代の建物で、飛鳥坐神社の参道沿いにある。参道の歴史的景観を今に伝える建築として「旧大鳥家住宅」の名称で国の登録有形文化財に登録されている。かつては飛鳥寺の境内だった場所でもある。講堂の敷地内の北西あたりに位置し、飛鳥時代ファンなら飛鳥寺に宿泊している気持ちにもなれる、たまらない宿だ。

建物は、日本料理店として使われたあと明日香村の「空き家バンク」に登録されていたものを、マンション施工会社の長谷工コーポレーションがリノベーションした。新建材が使われていた部分をはがし、オリジナルの部分を出し、通常は丸ごと交換する柱も接ぎ木して古材を使うなど、修復のような形で改修している。「長谷工が手がけるからには快適性も追及した」とのことで、どのように新旧折衷されているかも楽しみに、宿泊させていただいた。

宿の入口は車道沿いではなく、側道を入ったところにある。入ると右手に主屋、左手に離れがあり、それぞれ一棟貸しのスタイルで、1日2組み限定で受け付けている。スタッフは常駐せず、非対面リモートチェックインシステムで、暗証番号を入力することで出入りが可能だ。

今回宿泊させていただいた「茜の間」は主屋だった一棟だ。
 入り口から通り土間に入ると、大きなソファーや、ミニドリンクバーが備えられたくつろぎスペースがある。以前は台所だった場所で、見上げると長い時間をかけ煤で化粧された壁と煙出しが見える。この場所、土足エリアなのに床暖房になっているのだ。真冬には寒くて凍えるような土間も、床が暖かいことで長い時間くつろげる空間になっており、うれしい。


居住エリアは整形四間取りという田の字型4部屋を、寝るゾーンとリビングゾーンに分けている。こちらも古い建具や箱階段など、古民家の趣を残しながらも、床暖房を入れたり、道を車が通る音が気にならないよう従来の窓にペアガラスを入れた窓を追加して防音対策している。なつかしさを感じながら、最新設備で補強され、居心地がとても良い。段差などが少ないフラットな作りで、小さな子どもやお年寄りがいるご家族にはこちらがおすすめだ。最大6名宿泊できる。


もう一棟の南側の「山吹の間」、こちらは離れの位置づけだ。柱や梁、階段などは古材を利用しながら、床や二階の天井には山吹色に輝く新しい奈良県産の杉板を贅沢に使っている。


リビングと和室の間、屋根裏のような二階がある。部屋がしっかり分かれているので、2家族での宿泊などに向いているし、過ごし方別に部屋を分けて思い思いに過ごすこともできる。それぞれ場面が変わって部屋ごとに楽しめるという感想も多いそう。とくに、屋根裏のような二階は、秘密基地のようで、わくわくする。こちらは最大8名が泊まることができる。


どちらも、お風呂はしっかりリノベーションされていて快適だ。ミストサウナやタオルドライヤーも完備。どちらの部屋も信楽焼の浴槽で、焼きものの保温効果で体があたたまりやすい。特に茜の間は信楽焼最大の大きさの浴槽で2メートルを超え、家族全員で入れそうだ。茜の間のほうは井戸水を使っているとのことで、飛鳥寺の湯か、と感慨深い。


また、どちらの部屋にも専用の庭がある。夕方に庭を眺めつつ、飛鳥の日暮れを楽しめるのは本当に贅沢なことだと思う。


大きな机と本が置かれた書斎風の場所もある。古代史好きの心をくすぐる選書だ。明日香の魅力を宿でも知ってもらえるように感じて、とても嬉しくなってしまった。


食事については、基本的に素泊まりだが、プランによっては夕食を明日香村の食事処「めんどや」から飛鳥鍋を配達してもらうことも可能だ。朝食も注文できる。朝食は部屋の外のデリバリースペースに配達してくれる。ラストオーダーや起床時間を気にせずに自分たちのペースで食事も楽しむことができるのが利点だ。もちろん、外に食事に行ってもいい。ただし、明日香村内の飲食店は夜に営業しているところが少ないため、事前に確認や予約することをおすすめする。

調理器具はないが、レンジや電子ケトル、冷蔵庫などがある。好きな食事を持ち込んで温めるのもよいだろう。コーヒーやお茶などが充実したミニドリンクバーがあるのがうれしい。


この宿は「暮らす様に、見て触れて滞在」をコンセプトにしているのだそうだ。もてなしの魅力を持つ宿もある一方で、人がいないからこそ暮らすように気ままにすごせる魅力を持つ宿もあると感じた。

推古天皇や聖徳太子と関わり、数々の僧侶を輩出した飛鳥寺の境内だった場所で寝起き出来るということは、歴史ファンとしてはたまらない。建築をじっくりと見て部屋をゆっくり堪能するもよし、専用庭を眺めながら、日頃の疲れを落とすもよし、読書をして飛鳥時代に浸るもよし。様々な楽しみ方が出来るため、滞在時間があっという間に過ぎてしまう。
 1泊では足りない、次回は連泊をしたいと思う。

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