奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良宿手帖』

第4回

湯元井谷屋 ~心地よく過ごせる老舗の温泉宿~

今回は、長谷寺の門前町にある湯元井谷屋を紹介する。
創業は文久元年、160年続く老舗の温泉宿だ。

宿は、鉄筋コンクリートの別館と、木造の建物が美しい本館が道を挟んで対面している。この道は真言宗豊山派総本山・長谷寺への参道であり、大和と伊勢を結ぶ初瀬街道でもある。そういった参詣客に対応するためか、本館・別館あわせて30部屋もある。

(こちらは本館。チェックインなどは別館で行っている)

今回は、天気がよくないのでと宿の方にお気遣いをいただき、大浴場に近い別館に宿泊させていただいた。

落ち着いたたたずまいの館内の廊下には、かつてお伊勢参りに通った団体(講)の方たちの看板がずらりと並んでいて壮観だ。その風情からも宿の歴史が感じられる。


別館は不思議な作りをしていた。宿泊した「竹の間」は二階にあったのに、窓の外に庭があったのだ。宿が斜面にあるため、そういった作りにできたのだろう。町並みや山の風景を想定していたので、思いがけず、うれしい眺めだった。


夕方のひぐらしが鳴く時間帯に、庭を眺めながらお茶を頂き、心地よい時間を持つことができた。老舗の宿には、時代を経ていることによる包み込まれるような安心感がある。実はこの日は出張で都内からの移動してきていたので、落ち着いた空間に移動の疲れを癒してもらうことができた。


なお、以前に別の仕事で本館も見せていただいたが、数寄屋作りのお部屋で、とても素敵だった。今度はぜひそちらにも泊まってみたい。


夕食は部屋食で。老舗らしい、奇をてらわない懐石料理は、一品一品が美しく美味しい。豆腐のソースがかかった冷やし茄子、アワビとコブ〆の鯖の合わせなどは、優しい味付けながら、素材のうまみが存分に引き出されている。ちなみに写真の先付けのトウモロコシは、ただ茹でたものではなく、実を外してねりものの上に乗せてある。ヤマモモのゼリーも季節感が感じられてうれしい。ヤマモモは傷むのが早く、店で売られることが少ない季節の食材だ。
季節のもの、山のもの、海のものと様々な食材がバランスよく使われていて、様々な味覚でもてなそうとしてくれている気遣いが伝わってくる。美味しいものがたっぷりあるので、と、今回も地酒の飲み比べをお願いしてしまった。もちろん、どれもお酒とも合う。


「倭かも」の小鍋も名物と言われるだけあって絶品だ。肉は柔らかく、臭みもなく、素晴らしい出汁が出る。その出汁をたっぷり吸った野菜がまた美味しい。箸がすすみ、夢中で食べてしまう。


おなか一杯になった後は地下600mから湧き出る温泉「千人風呂」へ。


奈良盆地では温泉宿は少なく、井谷屋は希少だ。千人風呂というだけあって、広々と温泉に浸ることができる。泉質はナトリウム炭酸塩泉で、温泉の色は無色透明。手触り・肌触りがとてもやわらかい。入浴後は肌がしっとりすべすべになる。お風呂場の階下には温泉旅館につきものの卓球台も発見!誰かと泊まるならここで卓球をするのも楽しそうだ。


おいしい食事と温泉に浸かり、静かな中、夜は落ち着いてぐっすりと眠ることができた。

井谷屋に泊まるなら、長谷寺の朝の勤行に参列をおすすめしたい。
長谷寺本堂の朝の勤行は、僧侶による毎朝のお勤めで、元旦以外は連日行われている(4月1日~9月30日(毎朝午前6時30分)10月1日~3月31日(毎朝午前7時))。すがすがしい山の空気の中、礼堂で観音様に見守られながら、僧侶と一緒にお勤めに参列できる。春と秋に行われている「祈りの回廊」の期間中は、朝の勤行に参列する人に限り、入堂して観音様の足元で参拝することもできるとのこと(別料金)。
また、長谷寺では回廊にたくさんの風鈴をつるす「風鈴回廊」が今年から始まっている。酷暑が続くが、一服の涼を感じに、夏こそ長谷寺にお参りしてほしい。

ちなみに宿に公式HPか電話で直接予約をすると、長谷寺の入山・朝勤行券がついてくる。さらに、朝の勤行の時間には山門まで車で送迎してくれる。長谷寺山門までは5分の宿ではあるが、傾斜の強い坂道なのでありがたい。今回は行きのみお願いし、帰りは参道の店を下見がてら、歩いて帰った。

宿に戻ると部屋には朝食の準備が整っていた。奈良の朝ごはんには茶粥がつきもので、宿ごと、地域ごとの味わいの違いがある。井谷屋の茶粥は優しい味。雨に濡れた体にじんわりと沁みる。


朝食の後はふたたび温泉へ。雨の日や冬の寒い日、早朝のお参りから戻ったあとに、温泉でほっと出来る時間が持てるのも井谷屋に泊まる特権だろう。一面ガラス張りの千人風呂は、明るい時間に利用すると、門前町の家々の屋根が眼下に広がり、開放的だ。
ずっとお風呂に入っていたい気持ちにもなるが、のぼせてもいけないのでほどほどに。

帰り道には長谷寺にふたたびお参りするもよし、参道のお店を楽しむもよし。桜井・明日香村方面や、長谷寺を含む奈良大和四寺巡礼(長谷寺、室生寺、岡寺、安倍文殊院)の参拝時に1泊2日でめぐるなら拠点にもできる。また、奈良大和四寺巡礼は各寺院の僧侶が案内し、ご本尊前でご祈祷をしていただく特別参拝も行っているので、こちらもおすすめしたい。

(要予約)http://nara-yamato.com/news/special/

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