奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良宿手帖』

第8回

料亭旅館みよし~食もお参りも味わい尽くせる宿~


2022年は寅年。奈良の寅年といえば、寅にゆかりの深い信貴山朝護孫子寺が12年に1度の奥秘仏ご開帳の年でもある(※奥秘仏ご開帳はすでに終了)。この朝護孫子寺には寅年には昔から多くの参拝客が訪れる。境内には3つの宿坊もあるが、寺外周辺にも数件の宿がある。今年はやはり参拝客でにぎわい、引き続き来年もお礼参りに来られる方もいるとのこと。

朝護孫子寺の近くにある「料亭旅館みよし」は、今年創業120年の老舗旅館だ。ロビーの正面には紅葉した山々、右手には奈良平野、左手には朝護孫子寺の本堂が見える。チェックイン時にいただけるお茶とお菓子もとても美味しい。


2022年春には、眺望のいい山側の部屋を、畳にベッドのある和モダンな部屋にリニューアルした。今回はリニューアルしたばかりの「曙」に宿泊させてもらった。畳なので、足裏の肌ざわりがとても良く、ベッドの高さも立ち座りがしやすく嬉しい。この部屋なら、広々とした机と椅子、コンセントもあり、私のように仕事を持って宿泊する者にもありがたい。



少し落ち着いたころに夕食の時間になり、食事会場へと移動する。みよしは料亭旅館なので、食事を楽しみに訪れた。

食事は一品一品、出来立てを運んでくれる純和風懐石だ。来る途中に見た山々を思わせる、赤や黄色のいろどり溢れる前菜からスタート。お造りは鮮度抜群で、奈良に海がないことを忘れる。



煮物のこの美しさ。雪月花のかわいらしい器の蓋を開けた瞬間、整った見た目にほうっとため息をついた。ねっとりとした海老芋、ほくほくした南京、つるりもっちりとした栗麩、おいしいおだしをすっかりすった菊菜。なにより、真ん中の海老甘煮が、しっかり海老の香りと味が生きていておいしい!しかも煮た海老であるにもかかわらず、大きい!


焼き物はサーモン柚庵焼き。


写真からお伝えするのが難しいが、この焼き加減が絶妙なのだ。美しい照り色からも想像できるだろうが、表面は香ばしく焼き上がり、鼻からだけでなく目からも香りが感じられそうだ。食べると、見た目から伝わってくる「おいしそう」さを上回ってくるおいしさだ。中はしっとり、ふっくらと焼きあがっている。食べるとなくなってしまう、もったいない!と感じる一品だ。

実はこの「料亭旅館みよし」には昨年の12月にも宿泊させていただいた。そのときは焼き物に「ぶり大根」が出た。一般的にはブリ大根はブリと大根を炊くことが多い。ところがその時のみよしのブリ大根は、ブリが今回のように照り照りふっくらの焼き物だった。衝撃のおいしさだった。すべてのブリ大根のブリは焼くべきだとすら思った。

で、今年である。改めて、みよしの魚料理は、美味しい。刺身もそうだが、鮮度抜群ならではの臭みのなさ、甘さ、ジューシーさ。良い素材を使っても、素人には調理が難しい食材がある。脂の少ない魚もその一つだ。そういったものを、プロの手で最高の美味しさで食べさせてもらえるのは口福だ。

台物は大和ポーク胡麻豆乳鍋。胡麻だけでは濃厚すぎるところを、柔らかな大和ポークと、絶品の出汁が口の中で調和する。出汁の濃さが絶妙だ。

揚物は海老、薩摩芋、エリンギ、青唐。衣がカラッとして美味しいのは当然のこと、この海老の火の通し加減!!!!煮物の海老ではぷりぷりとした食感を楽しんだが、揚げ物の海老は白く変わる手前の、生のおいしさをキープした揚げ方で、これは海老好きにはたまらない。


美味しい鯛めしと、くどくなく品のよい赤だし、さっぱりとした漬物をいただいて、〆のデザートは抹茶プリンと林檎のコンポートだ。抹茶プリンはおなかがいっぱいでもするりと入る控えめな甘さで、抹茶の味がしっかり効いている。上に乗っている餡子の小豆の味が濃厚でこれまたおいしい。昨年来たときも、チェックイン時に出たお茶菓子の餡子のおいしさに感動したな、と思い出した。添えてある洋菓子は、林檎のコンポートと生クリームをクレープ状の皮でつつんだもの。林檎は過熱されているにもかかわらず、シャクシャクとしっかりした歯ごたえを残していて、ここでも火の通し加減のうまさに感じいった。


お腹いっぱい、大満足の食事の後は、大浴場でのびのびと手足を広げながらくつろぐ。壁の木材を張り替えたばかりで檜のいい香りが浴場いっぱいに広がり、リラクゼーション効果も高い。食事とお風呂に大満足して、ぐっすりとベッドで就寝する。

翌日は天候が不安定だったが、一瞬なにもみえないほど霧に包まれたあと、山々をたなびく雲が目の前に見えた。山の中で景色の移り変わりを眺めるのも楽しい。


起きたら朝の楽しみ、朝食が待っている。


朝ごはんももちろん充実。焼き魚、だし巻き玉子など、みよしならではの美味しさを朝から味わえる。おかずはもちろん、白ごはんが美味しい。みよしのごはんは自社生産・自家精米の奈良県産ひのひかりとのこと。米の香りがしっかり香り、やわやわすぎない適度な歯ごたえを残した焚き加減で、米自体のおいしさがよくわかる。チェックインカウンター前でこのひのひかりを購入できる。

朝護孫子寺の境内は広い。夜も常夜灯が灯っていてどの時間でもお参りができる。また、本堂の舞台からの日の出も美しい。近くの宿に泊まって、1日信貴山を満喫してもらいたい。

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