奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良宿手帖』

第1回

奈良ホテル~滞在することが目的の宿~


「滞在することが目的」。
奈良ホテルはそんな宿だ。このコラムを読んでいる皆さんも、泊まったことがある人、行ったことがある人は多いだろう。

奈良に旅をはじめた20代の頃から、憧れは募るものの、なかなか泊まりに行くことができなかった。というのは、特別な宿には特別な日、たとえば誕生日などに泊まりたい!と思っていたのだ。余談だがわたしの誕生日はお盆である。しかも、春日大社の中元万灯籠の日で、燈花会の最終日という、一年の中でも奈良公園一帯にかなり人が集まる日だ。つまり宿代が普段より上がる。就職したての旅人にはなかなかハードルが高く、願いを叶えたのは奈良に旅しはじめて大体7年ほど経ったころ。当時泊まっていた宿の3泊分の宿代だったが、憧れの奈良ホテルに泊まることができて本当に嬉しかった。


奈良ホテルが「関西の迎賓館」として誕生したのは明治42年(1909年)。今年2022年は、開業して113年になる。建築家・辰野金吾氏設計の桃山御殿風檜造りの本館に入ると、赤い絨毯を敷いた大きな階段が出迎えてくれる。この階段は20年前も今も変わらない写真撮影スポットだ。フロント周りに古い時計なども趣があり、見ているだけで楽しい。

奈良ホテルは本来なら三階分建てられる高さを二階建てにしている。つまり天井が高い。天井の高さから部屋が一層広く感じられ、伸び伸びと過ごせる。
寝具の固さや、部屋のソファの座り心地も良い。しっかりと作られた家具や寝具類は、丁寧に扱われてきたのがわかる。
クラシックさを感じても、古さは感じない。当然100年前からずっと使っているものだけではなく、時代時代によって入れ替わりもある。たとえば、新館三階にはアスリートが使用するエアウィーブというベッドマットレスを導入しているそうだ。しかし物が変わることはあっても、それは旅人の居心地のよさを考えての変化で、「心地よさを大事にする」というスタンスは常に変わらない。

せっかく奈良ホテルに泊まるなら、泊まる部屋だけでなく、館内見学も楽しみたい。館内に飾られた美術品や工芸品などは、一つずつ紹介していくとかなりの数になる。以前は館内ツアーも行っていたとのこと。感染症拡大防止のため休止しているが、落ち着いたら再開するとのこと。現在は美術品などの前にQRコードが設置しており、アクセスすることでホテルスタッフによる紹介動画を見ることができる。ツアーが再開するまでは動画からしっかりと教えてもらおう。


館内に展示されているもののうち、個人的なお勧めは、ロビー向かって右の廊下にあるケースだ。さまざまな時代の奈良ホテルのリーフレットやカード類などが展示されており、歴史があるホテルだからこその内容になっている。


宿に泊まる楽しみのひとつには、食事もある。メインダイニング「三笠」のディナーは洋食がメイン。


2020年にフロアの絨毯が敷き替えられたが、正倉院宝物の柄だ。こういったところにも奈良らしさが感じられて嬉しい。


和食レストランもあり、こちらはならまちや生駒山への眺望が素晴らしい。少し広めのテラスもあり、夏には数年前からビアガーデンも始まった。眺めのいい開放的な場所でお酒を楽むことができる。


朝食は和食・洋食・茶粥をチョイスできる。茶粥は緑茶を使っているが、奈良で朝食に緑茶の茶粥を出す宿はあまり多くない。さらっとした茶粥はあったかくて胃に優しい。洋食のふわふわのオムレツも美味しそうで、毎回ものすごく悩んだ末に私は毎回茶粥を選んでしまう。次回こそ洋食を選びたい。


この100年以上、毎日誰かが、今の自分と同じように五重塔を眺めながら朝食に舌鼓を打ち、今日どこに行こうか、奈良の旅にわくわくしてきた人たちがここに座って居たのだ。そんなふうに思うとき、自分もまた歴史の流れの一つに入れたような喜びを感じる。奈良ホテルでは連綿と続く歴史を感じられるシーンが随所にある。

宿泊しなくても喫茶室やバー、ショップ、レストラン等は利用できる。
奈良に住むようになってから、奈良に旅をしにきてくれた友人たちを誘って何度か喫茶室でお茶をしたが、喫茶室からの五重塔の眺めや、ときたま遊びにくる鹿たちの姿に、友人たちもとても喜んでくれた。春と秋はテラスも開放しているそう。屋外で景色を眺めながらゆっくり過ごすのもいい。


アフタヌーンティーや、ビュッフェなど、季節の企画も毎回素晴らしい。アフタヌーンティーはとても人気だそうだ。以前いちごのアフタヌーンティーを食べに行き、女性4人でキャッキャしながらいただいたが、奈良ホテルのあの空間で、アフタヌーンティー!というのは、相当気持ちが上がった。そしてスイーツのひとつひとつも趣向を凝らしていて、とても美味しかった。



最近は電動自転車を導入しており、周囲をめぐるプランも人気とのこと。徒歩もいいが、自転車だと移動時間が短縮されて行動範囲も広がり、ありがたい。奈良ホテルを拠点にして奈良国立博物館、南都銀行本店や旧奈良監獄など、ホテルと同じ年代に建てられた建築物を巡るのも楽しいことだろう。近い年代の建物が複数残っているのも奈良だからこそだ。

初めて泊まってからその後は、取材や個人の旅行などを含め、5回程は泊まってきた。だが実は、創業時の趣を感じさせるクラシカルな本館のスタンダードツインの部屋にしか泊まったことがない。しか、と書くのは贅沢なことだが、他の部屋にも泊まってみたい。そしていつかは最高級の調度品で整えられた、インペリアルスイートに泊まりたいというのがこれからの夢だ。

奈良に住んでいても、泊まってみたい憧れの宿があることがとても嬉しい。チェックインの前からチェックアウトの後まで、旅の気持ちを分断されることなく過ごし、ホテルの中でも旅を楽み続けることができる。奈良ホテルはそんな宿だ。
奈良ホテルが積み重ねてきた時間と空間を「自分自身にご褒美にしたい」そう思ったときに、また泊まりに行こうと思う。ずっと憧れ続けていたい、憧れ続けさせてくれる宿だと思っている。

奈良ホテルのSNSアカウントから情報が発信もされている。こちらもぜひチェックしてほしい。


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