奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良COTO絵巻』

誰にも会わない奈良~脱三密!歴史探訪~

空の広さと、知る人ぞ知る隠れた歴史スポットの多さなら奈良におまかせ!
三密にならない奈良の旅に出かけよう!

第4回

厳寒のススキの原 曽爾高原の大地に立つ

花の吉野に紅葉の龍田、一番美しいとされる季節に名所旧跡を訪ねるのもいいけれど、これからの旅は発想の転換も必要になるのかもしれません。人出の多い見頃・訪ね頃をあえて外して、普段の時期に自分だけの見どころを発見する旅はいかが? 今回は壮大な自然を満喫する曽爾の旅をご紹介しましょう。

奈良県の北東部に位置し、三重県と県境を接する曽爾村。電車は通っていないので、出掛けるなら車がいい。桜井・宇陀方面からは国道369号を南東へ、山間をひた走る。石楠花トンネルと栂坂トンネルを続けざまに抜ければ、 “日本で最も美しい村”に選ばれている曽爾村だ。村の西の玄関口である山粕集落は、かつては伊勢本街道の難所である鞍取峠越えを前にした旅人が必ず投宿したという宿場町だった。細い旧街道には築200年になるかつての旅籠をはじめ商家のつくりの家々が軒を連ねるが、厳冬期に入り人の影もなく、「奥宇陀の大阪」と呼ばれた賑やかな時代を建物だけが物語る。

やがて道は御杖村への分岐となる掛交差点に差し掛かるが、ここは見逃してはいけない絶景ポイント。青蓮寺川にかかる新愛宕橋の左手ににょきり! 見越し入道のような岩山が唐突に現れる。曽爾を代表する山のひとつ、鎧岳だ。近づくにつれ、規則正しくも荒々しい柱状節理の岩肌がはっきりと見えてきて迫力も倍増する。鎧岳のほか兜岳、屏風岩など曽爾村一帯に切り立つ断崖は、約1300万年前の火山活動でつくられた岩盤を川が浸食し、形成されたものだ。この壮大かつ特異な景観こそ、曽爾村が関西屈指の高原の避暑地として親しまれてきた所以でもある。

太古の火山活動から生まれた景観と並び立つ曽爾の名所といえば、ススキで知られる曽爾高原である。倶留尊山と亀山の西麓に広がる高原は一面をススキに覆われ、秋には金波銀波さざめくススキの原を楽しもうと大勢の人で賑わう。そして冬――。気温は氷点下間際、青空なのに雪雲が垂れ込め、ごうと鳴る風とお亀池に遊ぶ鴨の声しか音もない。時折チェーンソーのうなる音が風に乗ってやってきて、静寂を際立たせる。ススキはまだまだ見ごたえ十分だ。白いふわふわの穂から枯れて赤茶けた茎まで、美しいグラデーションを見せる。高みから見渡せば、遠くには屹立する曽爾の山々。天と地の間に立って旧年を送り、新しい年を迎える。自分だけの旅の醍醐味がここにはある。

今回のぼっち旅、出会ったのは人間6人と犬2匹とカモ6羽。密じゃない!

新愛宕橋から見える鎧岳。曽爾のシンボルだ

山桜の名所・屏風岩の柱状節理

厳冬期を迎える曽爾高原とお亀池

ススキの穂が陽を受けてキラキラ光る

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