電車でバスで、野越え山越え何秒何分何時間、もひとつおまけに幾日かけて、辿り着いたは青丹よし寧楽のみやこの心地良き。仰ぐたび、見るたび、聴くたび、触るたび、奈良踏みしめし喜びを、じわじわ地味~に噛みしめたくて、狭くしつこく歩く旅。
あァ、奈良に来た! 第7回
「日本最西端の岬」「本州最北端の駅」…、とかく日本には「最突端」「最果て」であることを謳う場所が多い。その先にはだぁれもいない最果ての地は、自分を見つめる旅の憧れでもあるのだろう。四方を他県に囲まれた奈良には一見最果ての地はなさそうだけれど、いやいや要は考え方次第。立派な“はしっこ”があるのだ!
鉄道ファン垂涎“まぼろしの五新鉄道”が象徴するように、奈良県は、吉野より南には鉄道が通っていない。そのためか、吉野山が奈良の最南だと思っている人は多いが、なんのなんの、奈良は吉野から先が長くて深い。吉野山の南には“奈良県のへそ”と呼ばれる黒滝村があり、その奥には日本一大きな村・十津川村が控えている。
吉野以南の地域の一番の魅力、それはなんといっても紀伊半島の自然、生命力に満ち満ちた山の魅力だ。もちろん自然ばかりではない。その山中を古代からの信仰の道が走り、南朝哀史が語り継がれ、五條・東吉野・十津川では幕末の天誅組義挙の記憶が刻まれている。しかしその歴史もまた、紀伊半島の濃く深く幾重にも連なる山々あったればこそ展開したことのように思える。
旅の移動手段は車かバイク(自転車は超が付く玄人向け!)。和歌山や三重に向かう幹線には国道168、169号線があり、ドライブにはもってこいの快適な道である。そしてもう一つ、ここには三重県尾鷲市から和歌山県御坊市まで、紀伊半島を横断する国道425号線が走る。400番台国道の期待を裏切らず“酷道”と揶揄されることも多く、土砂崩れによる通行止めも多々あり、夏場には凸凹の路面に草が生い茂るなどなかなかの道ではあるが、延々と緑に囲まれた曲がりくねった道中は、滝あり野生動物との遭遇あり、小さな谷川に掛かる小橋を数えるのも楽しい、まさに自然を満喫できる道である。実際訪れた当日は坂本ダム周辺が通行止めとなっており、通行止め区間を挟むように奈良県側、三重県側両方から攻めたが、県境近くの名所、かくれ滝を無事拝めたほか、ふわふわのウリ坊1頭、ちゃんと逃げる鹿2頭、山を渡る子連れ猿たくさんに至近距離遭遇。尾鷲から奈良へ向かう区間では順に、矢所・新長尾・中村・栗乃木・坊主・琴谷・栃川原・八幡・大小屋谷 ---<県境>--- ミキ・名古瀬・下三吾・カルモ・不動・出合の小橋を渡った。
そして冒頭で触れた“はしっこ”は、この道の途中にある。それは四方を陸地に囲まれた“海なし県”奈良ならではの最突端「いちばん海に近い奈良」だ。Googleマップ上に示される住所は奈良県上北山村白川。海からは直線距離にして約7.6km、車なら約20分の距離だ。最突端ポイントは林道沿いのためそこに立つことはできないが、叉口川対岸の三重県側から拝むことができる。何てことはない、ただそれだけなのだけれど、“はしっこ”好きにはたまらない喜びである。見方を変えれば、きっとまだほかの“はしっこ”もあるに違いない。自分だけの奈良を探して、さあ、ひた走れ!
400番台国道、R425。奈良県下北山村~三重県尾鷲市間は約43kmの道のりだ
池原ダム堤体の天端(てんば)を走るR425(下北山村池原)
県境近く、上北山村にあるかくれ滝。R425沿いからほんの少し山に入る
沢の水はラムネ玉のように澄んでいる
叉口川にかかる橋の上から「いちばん海に近い奈良」を望む
その果ての海、三重県尾鷲港。海上保安庁の巡視船「すずか」が出港準備中