奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良COTO絵巻』

あァ、奈良に来た!

電車でバスで、野越え山越え何秒何分何時間、もひとつおまけに幾日かけて、辿り着いたは青丹よし寧楽のみやこの心地良き。仰ぐたび、見るたび、聴くたび、触るたび、奈良踏みしめし喜びを、じわじわ地味~に噛みしめたくて、狭くしつこく歩く旅。

あァ、奈良に来た! 第10回

ザッツ・エンターテイメント!
新年は元気が出る寅の信貴山詣でへ

奈良県の西北部と大阪府との境、生駒・信貴の山中には、いまも庶民の篤い信仰を集める古刹がある。一つは“聖天さん”の名前で親しまれる生駒山宝山寺、もう一つが今回の目的地、大きな張り子の寅で名高い寅の寺、信貴山朝護孫子寺である。2022年は寅年、しかも1月1日は寅の日。寅年の賑わいを目前にした、年の瀬の信貴山を歩いた。

降雪を予感させる重く冷たい空気が、信貴の山をおおう。2021年最後の土曜日、こんな寒さの中でも参拝客はひっきりなしに訪れる。山門前の大門池に架かるのは、鮮やかなオレンジ色の手すりと虎の装飾が目を引く「開門橋」。寒空の下、開運バンジーと称した高さ30mのバンジージャンプに興じる若者が列を作る。開運橋は1931年(昭和6)に架けられた「上路カンチレバー橋」で、この構造をもつ現存する橋としては日本最古であり、登録有形文化財となっている。駐車場から下っていく道沿いに橋脚を仰ぎ見ることができ、とくに春や夏、緑に映える橋脚の美しさは一見の価値がある。

開運橋の向こう岸から甘く香ばしい匂いを漂わせるのは、立体顔が凛々しい名物「寅まんじゅう」。表面サックサク、あんこアツアツの焼きたてを頬張ったら、左手へ。大寅・小寅の横を過ぎ、赤門をくぐると、そこからは魅惑の寅寅寅寅ワールドだ。境内の建物、灯籠の竿の根元、至るところに寅の木彫りや石像が見え、さらにはテーマパークばりの寅の胎内くぐり(四国八十八カ所霊場お砂踏み)まである。朝護孫子寺がここまで寅にこだわるのは、その創建に由来する。寺の歴史は、582年の寅の年・寅の日・寅の刻に、聖徳太子が毘沙門天王を感得、その5年後に物部守屋を倒して自ら毘沙門天像を刻み、本尊として祀ったことに始まるという。

寅に囲まれた参拝は、ハッキリ言って大人も楽しい。寅を探しながら、遊ぶ感覚でお砂踏みをし、楽しみながらお参りをする。かつて社寺の参拝はレクリエーションでもあった。無理なく楽しい心地で本堂に至り、本尊に手を合わせるとき、こんな気負わないお参りもいいなと素直に思う。お参りする方もされる方も、お互いが遊び心を許容する、このおおらかさが嬉しい。本堂の下の胎内巡りを楽しむもよし、やや足を延ばして空鉢護法堂までハイキングを楽しむもよし。護法堂のそばには、かの松永久秀の信貴山城址の碑も立ち、城好きなら眼下を一望したい地でもある。

ところで境内にいるのはトラだけではない。イノシシ、ニワトリ、ネコ(生きている猫)キツネ、ウマ、獅子狛犬、ウサギ、ゾウ、龍、ムカデ、ヘビ、カメ…、いろんな動物に出合うことができる。真に迫るもの、おかしみあふれるもの、いずれも味わい深い彫像ばかり。写真は抑えに抑えたセレクトなので、もっと面白いものは実際に行って探してみてほしい。初詣期間中はゆっくり見られないだろうから、桜の季節あたりを狙ってみては?

寅年の話題は境内にできたトラ柄ポスト

橋の下から仰ぎ見た開運橋

大寅(世界一福寅)と本堂を背景に参道を横切るのは、本物のトラ猫!

境内にはいろいろなパターンの四国八十八カ所霊場お砂踏みがある

車を回してご利益を願う。両脇には毘沙門天のお使い「ムカデ」

お堂を飾るのは、ドラゴン???

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