空の広さと、知る人ぞ知る隠れた歴史スポットの多さなら奈良におまかせ!
三密にならない奈良の旅に出かけよう!
第5回
じっとしてはいられないほどのキビシイ寒さが待っているけれども、冬の葛城山は穴場中の穴場である。今の時期なら市街地からそう遠く離れずに、しかもものの10分で、真冬と早春の2つの季節を往来できるのが魅力。山上には冷えた体に嬉しい名物「かも鍋」だって待っている。ツツジだけじゃない葛城山へ、いざ!
奈良県には、乗り物好きなら一度は乗りたい路線が3つある。まずは大正7年(1918)に開業した日本初の営業用ケーブルカー「近鉄生駒鋼索線(生駒ケーブル)」。聖天さんの通称で親しまれる宝山寺や、生駒山上遊園地に行くならコレ。生駒山の急坂を力強くぐんぐんと登っていく。ちなみに生駒山上遊園地には昭和4年(1929)の開園当初から動く飛行塔がある。戦時中の金属供出を免れて今も動く、日本最古の大型アトラクションだ。ずんぐりとした姿はどこか懐かしく、奈良県の景観資産にもなっている。2つめは昭和4年開業の「吉野山旅客索道(吉野山ロープウェイ)」。これもまた、地元の人々が金属供出から守り抜いた現存する日本最古の索道だ。架設当初の姿を今に残している点では世界最古級でもあり、こちらは日本機械学会の機械遺産に認定されている。
そんな歴史ある2路線の間に位置するのが、昭和42年(1967)開業の「近鉄葛城索道線(葛城山ロープウェイ)」である。標高324mの葛城登山口駅から、標高885mの葛城山上駅まで、561mの標高差を約6分で結ぶ。生駒ケーブルや吉野山ロープウェイと比べればまだまだ若いが、窓からの眺めは抜群。大和盆地にきれいな三角形を描く大和三山を眼下に、北は若草山、南は吉野の山々まで、まさに奈良県を一望する壮大なパノラマが楽しめる。とくに冬は空気も澄んで、視界は良好だ。山頂へはもちろん歩いて登ることもできるが、冬季にはアイゼンなどの装備が必要となる山登りだけに、ロープウェイは冬の葛城山を満喫するための心強い味方でもある。
せっかく行くなら、まだ山頂の気温が上がり始めない朝一番のロープウェイがいい。蕾ふくらむ野の花に早くも春の訪れを感じる登山口駅を出発、途中山肌に残る雪を見下ろしながら山上駅に到着する。改札の外に待っているのは、早春一変、凍てつく厳寒の葛城山だ。天候次第では山上駅から葛城山頂までの15分ほどの道のりも雪に覆われる。気温は氷点下5度をゆうに下り、本気の防寒をしていかないと3分もしないうちに凍えてくること請け合い! 標高約960mの山頂一帯は遮るもののないなだらかな高原地形で、大和盆地や大阪平野が見渡せる。また真冬の葛城山といえば霧氷や樹氷である。山上の風雪に耐えて根を張る木々はどれも氷をまとい、白い枝先を雪空に溶け込ませる。空気はきんと冷え切って、指も足もビリビリ痺れて痛いけれども、生身のからだが感じられて何故か嬉しくなってくる、清々しい冬の朝である。
今回のぼっち旅、出会ったのは約50人。広さは確約、密じゃない!
陽光を浴び、はるかぜ号で山頂を目指す
山上駅展望台からの大和盆地
山上駅では雪だるまがお出迎え
白く化粧した木々