奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良COTO絵巻』

あァ、奈良に来た!

電車でバスで、野越え山越え何秒何分何時間、もひとつおまけに幾日かけて、辿り着いたは青丹よし寧楽のみやこの心地良き。仰ぐたび、見るたび、聴くたび、触るたび、奈良踏みしめし喜びを、じわじわ地味~に噛みしめたくて、狭くしつこく歩く旅。

あァ、奈良に来た! 第12回

いつか、海へ注ぐ日
一級河川・大和川流れ旅 その2

天理・桜井の山中に源を発する一級河川・大和川を下る旅。上流域では次々と湧いて出る誘惑にあらがいきれず、あっちに引っ掛かりこっちに引っ掛かりして下ってきたが、今回はいよいよ中・下流域へ。川は奈良盆地をひたすら西へ流れていく。あの小川が長い旅を経て大海に流れ込むその刹那を、果たして今日こそ、この目にすることができるのか?

川を下るといってもボートやカヌーを漕ぐわけではない。ひたすら流れに沿って車を走らせるだけである。大和川本流は、奈良県内なら両岸もしくは一方の岸に車の通行が可能な「堤防道路」がほぼ途切れることなく設けられているから、正真正銘、流れに沿って下っていくことができる。しかしそのほとんどが対面通行であり、地元車はびゅんびゅんと飛ばしていくので、ぶつからないよう転落しないよう、堤防道路初心者は要注意要注意。

桜井市を過ぎ田原本町に入ると、道路下には田畑・民家・工場・竹やぶが入り代わり立ち代わり現れる。一方、道路沿いに次々と展開するのが「しきのみちはせがわ展望公園」である。14の施設からなる片道約3.5kmの河川ルート公園で、地図で目にすると古墳群と見紛うほどの群集ぶり! 実はこの公園、名前に「展望」と付きながら、高い展望台のある施設は「ながめの丘」の1施設しかない。すなわち、ここで謳う展望とは、上から見下ろす展望ではなく横に広がるワイドな展望なのだ。公園から東を見れば、田畑や家並の向こうに三輪山をはじめとする奈良盆地を囲む山々が一望でき、いかにも奈良らしい大らかな風景が広がる。朝な夕な、ここを歩いたらどんなに気持ちいいだろう。大和川堤防道路は穴場の散策路でもある。

田原本公園群を過ぎると、今度は合流ポイント連続地帯に入る。布留川、佐保川、寺川、飛鳥川、曽我川、岡崎川、富雄川、佐味田川、竜田川、信貴川、葛下川…、合流する支流の数は直線距離約10kmのあいだに10本を超え、奈良盆地中の川という川が北から南から大和川に合流すると言っても過言ではない。本流支流ともさして広い川幅はなく、何の変哲もない合流地点の風景ではあるが、この川の営みが古代からずっと続けられ、幾世代にもわたる人たちが同じ風景を見てきたのだと思うと静かな感動を覚える。大和郡山市・川西町・安堵町の境に位置する佐保川との合流地点では、「大和川合流点0.0km/さほがわ」の石標をみつけた。石標はこの後も堤防に点々と建てられており、河口からの距離を刻む。合流点には必ずと言っていいほど立っているので、川下りに「石標探し」という新たな楽しみが加わること請け合いである。

中流域にも引っ掛かりどころは多い。大切に守られてきた川西町の真っ黒ギトギト油掛地蔵、斑鳩町と河合町に架かるドキドキハラハラ沈み橋をはじめ、引っ掛かりはじめたらきりがない。川下りを標榜するなら、複数の合流地点の中心に鎮座する治水の神・廣瀬大社と、三郷町に鎮座する風の神・龍田大社にはぜひ立ち寄りたいものだ。この三郷町から先、川はついに県境を越え大阪府柏原市に入る。県境一帯は古来大和川の水運と龍田街道の陸運が栄えた交通の要衝であり、天然の関所としても重要な場所だったが、地すべり災害を起こしやすい地でもあり、特に近代の鉄道敷設においては「亀の瀬の地すべり」は関係者を大いに悩ませてきた。結果、大和川を渡るかたちで敷かれた関西本線は今では撮り鉄に人気の高いポイントとなり、地すべり対策も想像を絶する規模で行われ、「もう、すべらせない!!」を合言葉に「龍田古道・亀の瀬」は日本遺産に登録されている。

亀の瀬の渓谷を抜け柏原市市街まで来ると、川はすっかり下流の趣となる。河川敷は野球ができるほど広く、堤防道路に車の影はなく、市民の散策やジョギングコースとして利用されている。市役所の目の前では石川が大和川に合流し、河口まで西進約18km。遠くにあべのハルカスも見える。実はここから河口までは自然の流れではなく、江戸時代、元禄17年(1704)に付け替えられたものだ。本来の大和川は幾筋にも分かれて北上し、淀川に合流していた。高井田横穴に隣接する柏原市立歴史資料館では、大和川の歴史を知ることができる。

さあ、河口まではあと少し。大阪市に入ると川沿いに走ることは難しくなり、大和川の右岸を走る「大和川通」を西進する。最後はかもめが両翼を広げたようなかもめ大橋を渡り、南港南へ。釣り人に促されるように大阪湾の護岸に立つ。大和川河口は広く、桜井・天理の山中のあの小さなせせらぎが想像できないほどに、都会のなかの大きな流れとなって湾に注いでいた。振り返れば、夕景の大阪湾。大和川下りの旅が終わり、川は長い長い海への旅に出た―。

展望公園から三輪山を望む

大和川(右)と佐保川(左)の合流点

大和川(左)と飛鳥川(右)の合流点

沈み橋(大城橋)は人もバイクも車もわたる生活道路

撮り鉄必撮!鉄橋の上に橋が架かる亀の瀬付近の関西本線

緑色のタンクと護岸の突端の間に見えているのが大和川河口。左はかもめ大橋

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