奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良COTO絵巻』

あァ、奈良に来た!

電車でバスで、野越え山越え何秒何分何時間、もひとつおまけに幾日かけて、辿り着いたは青丹よし寧楽のみやこの心地良き。仰ぐたび、見るたび、聴くたび、触るたび、奈良踏みしめし喜びを、じわじわ地味~に噛みしめたくて、狭くしつこく歩く旅。

あァ、奈良に来た! 第2回

早起きは三文以上の得! “生き物”目覚める朝の平城宮跡

せっかく奈良に来たのなら、朝は頑張って早起きしては? 近鉄線の大和西大寺駅と新大宮駅の間に広がる平城宮跡の朝は、いろんな“生き物”の生態を楽しむのにうってつけ。だだっ広い空の下、だだっ広い野に立って迎える朝は、観れば観るほど面白い。

5月なら奈良の日の出は朝5時前後になる。宮跡の朝を100%楽しむなら、遅くとも日の出の30分前には着いていたい。夜明け前の平城宮跡は、不慣れだと想像以上に暗く感じるから、スマホでも懐中電灯でも、何か足元を照らす灯りを持っていくといい。

宮跡へはいくつもの入口がある。奈良文化財研究所前の前にあるのが佐伯門だ。門から東へ向かって少し歩くと、左前方に大きな建物のシルエットが見えてくる。復原された第一次大極殿である。お寺が新しい伽藍を建立するのとは違って、大極殿は“いま生きている建物”ではないから、明るい昼間に見るとどうしてもセット感がぬぐえないが、夜明け前は話が別。青と赤のグラデーションに息をのむ朝のマジックアワーに欠かせない役者なのである。天平のシルエットが、1日の始まりをドラマチックに魅せてくれる。

建物の細部がうっすらと見え始めるころ、鳥たちも活動を開始する。クチュクチュピチュピチュ、姿は見えないが、茂みからおしゃべりが聞こえ始める。さらに日も昇り、大極殿や第二次大極殿・朝堂院跡などが金色に輝くゴールデンアワーを迎えると、平城宮跡にはもうひとつ、うごめき始める生き物がいる。ニンゲンだ。朝の活気を運んできたのは、公園内に響き渡る散策仲間の女性3人組の陽気なおしゃべり。第二次大極殿の基壇の上をただひたすらぐるぐると回り続ける男性の姿もある。5周、10周、20周…、自分に課した回数を達成し基壇をあとにすると、すぐに次の周り手が現れた。この日は都合4人の周るおじ様たちが、早朝の日課を真面目に勤め上げた。かたや遺構展示館周辺では、趣味を同じくする皆さんが一心不乱に横笛の早朝練習。誰にも憚ることなく自分の時間を楽しみ、自分の世界に没頭できる早朝のひととき。平城宮跡は訪れた人すべてに等しく、居心地の良い場所でいてくれるのだ。

明るくなれば、今度は鳥たちのお食事タイムである。柱跡を示す柘植の円柱は、モズの格好の餌台だ。柱のてっぺんからじっと地面を見つめ、狙いを定めるや一直線に急降下。獲物ははやにえにはせず、柱の上で踊り食い。食べ終わるやまた、次の獲物を探す。同じころ、宮跡の北に広がる水上池でも、カワウたちが食事に余念がない。数羽の集団をつくって池縁に沿って泳ぎ、先頭から順番に池に潜っては魚を狙う。リズミカルに潜って顔を出しての繰り返しは、シンクロナイズドスイミングのようで実に優雅。鳥たちの朝ごはんの様子は、近隣の畑でもよく観察できる。

9時、10時ともなれば、スポーツやピクニックを楽しむ人々がたくさん繰り出してくる平城宮跡。これはこれで平穏な奈良の日常風景に違いないが、秘密めいた早朝の楽しさは、この明るさの下にはすでにない。生き物が動き出す1日の始まりを、同じ生き物として実感できる平城宮跡のマジックアワー。奈良にいるなら、奈良に来たなら、明日は少し早起きしてみませんか?

平城宮跡、朝のマジックアワー

朝日を浴びて金色に輝く基壇

獲物を探すモズ

ハジカミ池ではアオサギが営巣中

平城宮跡周辺には「昭和」が見え隠れする

葛木神社前「八人衆」による注意喚起

▲ ページ先頭へ