奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良COTO絵巻』

誰にも会わない奈良~脱三密!歴史探訪~

空の広さと、知る人ぞ知る隠れた歴史スポットの多さなら奈良におまかせ!
三密にならない奈良の旅に出かけよう!

第6回

うちわ1本で悪疫退散! 神野山の天狗に会いに

それはむか~し昔のこと。大和国の神野山の天狗と、伊賀国の青葉山の天狗が大喧嘩をしたそうな。天狗同士の喧嘩はどんどんエキサイト! やがて青葉山の天狗が信じられない行動に出るが…。大和高原東北部、県立月ヶ瀬神野山自然公園の一角に位置する山添村の神野山。見晴らしサイコー、ハイキングに格好の山には、今も天狗さんが住んでいる。

そう、本当の話、神野山には今も天狗が住んでいる。うそだと思うなら是非行ってみてほしい。標高618mの山頂へのアプローチはいくつかあるが、天狗の痕跡をたどるには、県の名勝・鍋倉渓から入るのがいい。鍋倉渓に隣接する駐車場からはすぐ、谷を一望する場所に出る。そこには一種異様な光景が広がっている。足元から上方へは約550m、下方へは約100m、平均25mもの幅でごろごろと岩の川が横たわっているのだ。天狗が割ったのか、真っ二つに割れた岩もたくさんある。さらに、水は見えないのにどこからともなく水音が絶えず聞こえてくる。このあまりに唐突に現れる風景には、みな言葉を失うだろう。いや、むしろ何と評してよいやらわからない、自然とも人工とも思えるような光景なのである。なぜならこれこそ、天狗がつくった岩の川だからである。

もっとも現代人は、鍋倉渓の成因について科学的な説明も行っている。それによれば、大和高原一帯は花崗岩質でつくられているが、神野山だけはひときわ岩質の堅い角閃斑レイ岩という火成岩の一種でできているそうだ。やがて山の表面が風化して堅い岩だけが残り、自然に深い谷底に集まったが、その谷も自然地形の変化によって浅くなり、ついには累々と岩だけが転がる谷となったという。一見溶岩が流れたあとのようにも思えるが、風化による現象であるという。ちなみに本来の水流はというと、さらに地表深く潜って岩の下を伏流し、音だけ聞こえる川となった。絶景ポイント近くでは、水の流れをのぞき見できる「穴」もある。だがこっそり教えよう。これは天狗が造った暗きょである。鍋倉渓沿いに非常に緩やかな山道を登ること小一時間で山頂につく。途中大小さまざまな見どころはあるが、天狗に会いに来たのだから、天狗岩と呼ばれる巨岩だけは見落とすことのないようにしたい。これらの巨岩には、アルタイル(天狗岩)やアンタレス(竜王岩)など鍋倉渓(天の川)が夜空の星を写したものだと考えるロマン派によって看板も設置されているから、楽しみながら登っていこう。

神野山の名物は、時折山頂に吹きすさぶ大風である。その勢いたるや、びゅうびゅうと音を鳴らし、体を浮かせ、山を揺るがすかの如くだが、イヤな風ではない。なぜなら天狗が大団扇であおいだ風だからである。天狗の団扇は持っているだけで神通力を発揮するといわれ、これ1本で何でもかんでも自由自在である。この風に運よく当たれば悪疫退散、コロナに翻弄される毎日も払拭してくれるに違いない。山頂は予想以上に平らかである。天狗がど~んと居座るには、これだけの広さも必要だろう。山頂にはツツジも多い。これは鍋倉渓の岩と一緒に、伊賀国の青葉山の天狗が投げつけてきたものである。神野山の天狗は青葉山の天狗と犬猿の仲であった。そう、言い遅れたが、鍋倉渓をつくったのは正確には青葉山の天狗である。自分の山の草木や岩を腹いせに投げ続けたばかりに、敵陣の神野山を木々が豊かに繁る山に、自陣の青葉山を逆に禿げ山にしてしまった、人間味あふれる天狗さんである。おかげで我々は今もこうして神野山を楽しむことができるのだ。山頂の展望台からは西は奈良の水間峠、北は月ヶ瀬、東は伊賀の青山峠などを一望する。神野山の天狗と一緒に大空を闊歩するつもりで、春間近い風を感じたい。

今回のぼっち旅、出会ったのは8人。換気はばっちり、密じゃない!

大小さまざまな岩がごろごろ、鍋倉渓

山頂途中にある天狗岩

神野山中腹の「めえめえ牧場」

奈良県三大梅林・月ヶ瀬梅渓も近い

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