奈良ファン倶楽部 WEB通信『奈良COTO絵巻』

あァ、奈良に来た!

電車でバスで、野越え山越え何秒何分何時間、もひとつおまけに幾日かけて、辿り着いたは青丹よし寧楽のみやこの心地良き。仰ぐたび、見るたび、聴くたび、触るたび、奈良踏みしめし喜びを、じわじわ地味~に噛みしめたくて、狭くしつこく歩く旅。

あァ、奈良に来た! 第9回

出て入って飛んで入って渡って戻る
瀞峡~めくるめく三県境の川遊び

周囲を他府県に囲まれた奈良県は、いわばぐるり一周が県境。奈良・京都・滋賀、奈良・大阪・京都というように、3府県が接する三県境も合計8カ所に及ぶ。そのうち5カ所を占めるのが、県南部の十津川村と、三重県・和歌山県とが接する北山川流域だ。この三国境が点在する一帯は瀞峡(どろきょう)と呼ばれ、断崖荒々しく切り立つ絶景の地でもある。

奈良県最南の村・十津川を目指し、奈良市内から国道169号を南下してすでに約2時間半、車は下北山村を通過中である。今日の旅のテーマは、めくるめく「県境越え」と「三県境攻め」だ。十津川村の瀞峡には、全国的にもたいへん美しい眺望を誇る「三県境」がある。やがて右手にたっぷりと水をたたえた北山川の七色貯水池が見えてきたら、三重県との県境も近い。もっともこれは陸上に限っての話である。北山川は和歌山と三重の県境にもなっているから、奈良と三重の県境をまたいだ瞬間、川の中では奈良・三重・和歌山の3県が「├」の字形にせめぎ合っていることになる。

曲流する北山川に沿って走る169号をさらに進むと、前方には七色ダムが見えてくる。道はダムの狭い天端に続いており、川の中央部で三重県熊野市から和歌山県北山村に入る。この北山村は知る人ぞ知る全国唯一の飛び地の村。和歌山県なのに和歌山県と接することなく、奈良県と三重県に囲まれている。一帯は吉野熊野国立公園で、上流から順に奥瀞、上瀞、下瀞と呼ばれる美しい渓谷が続く景勝地だが、かつて陸運が不便だった時代には、新宮まで材木を筏に組んで流していた生活の川でもあった。ゆるやかな奥瀞の流れを眺めながらさらに車を走らせ、小松トンネルを抜ければ、和歌山県から奈良県十津川村に入る。ここ十津川村は日本一大きな村だ。深い山あいに集落が点在し、その地理上、近代的な橋はもちろん、生活道路としての吊り橋が今も多く存在し、橋好きでなくともぜひ訪ねてほしい、どこか懐かしい日本の山村である。

瀞峡はその十津川村の南部に位置する。大台ケ原を源流とする北山川の両岸31kmにも及ぶ大峡谷で、巨大な滝が滝つぼを後退させ、長い年月をかけて現在の景観が出来上がったという。玉置山頂の古社・玉置神社の御手洗池とも伝え、とろりとした紺碧の深い淵に切り立つ断崖、獅子岩・亀岩・とさか岩・墜落岩などの奇岩奇勝はまさに圧巻。生活のための川舟やプロペラ船が新宮まで行き来した時代を経て、昭和四十年代以降はジェット船で多くの観光客・新婚旅行客が訪れた。

三県境の案内板のある十津川村田戸は、2020年末までジェット船の折り返し地点であった。大正6年の創業時は筏師の宿だったという古風な瀞ホテル(食事・喫茶のみ)や郵便局、駐在所が立ち、動くもののない静けさに、かえってかつての賑わいが聞こえてくるかのようだ。川辺からは山彦橋の上流(上瀞)や、瀞八丁の通称で親しまれる下瀞をめぐる観光川舟が出ている(予約制)。小さな舟だから水面もすぐ近く、ときには水しぶきを浴びることも。両岸から覆いかぶさるように迫る巨岩や水面すれすれに飛び交う水鳥にしばし俗世を忘れ、ゆったりと流れる時間を楽しみたい。県境の川、北山川・瀞峡遊覧で、奈良一美しい県境の旅を満喫しよう。

晩秋の瀞八丁。川を挟んで手前が奈良、右が和歌山、左が三重の三県境である

田戸に立つ三県境案内板。北山川沿いの三県境はあと4カ所ある

瀞峡にかかる山彦橋(全長83m、高さ25m)。向こうは三重県、渡って戻って県境の旅

これは必須!おじさんのガイドが味わい深い川舟(かわせみ)での瀞峡めぐり。舟には玉置神社の大漁旗がはためく

のんびりゆっくり、時にはしぶきを上げて、断崖・奇岩の幽邃の峡谷を舟はゆく

川辺では人懐こいカモもお出迎え♪(写真は初夏)

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